【新作レビュー】『クローバー』古澤健


『クローバー』
(2014年/日本)
監督:古澤健
出演:武井咲、大倉忠義、永山絢斗、夏菜

(感想)
少女漫画原作の映画の系譜は、楠田泰之監督の『花より男子』まで遡ることになるだろうか。厳密にたどればジャック・ドゥミの『ベルサイユのばら』ぐらいまで行くことになるが、そこまで行ってしまうと現代まで還ってくることは容易ではない。
近年相次いで、漫画原作の実写化が行われる中で、少女漫画を映画化したものにハズレが少ない印象を受ける。
もっとも、基本的に現実に近い内容であって、起承転結も明確にある少女漫画は、要点を押さえさえすれば映画の尺にまとめあげることも不可能ではないからだ。

そんな少女漫画原作の映画が、この2014年には多数公開された。春には『L・DK』、夏には日向朝子による『好きっていいなよ』、一昨年『僕等がいた』を成功させた三木孝浩にいたっては『ホットロード』と『アオハライド』の二作品を公開させるなど、日本映画界のネタ不足を逆手に取るかの如く、佳作が続く。
いよいよ公開された『クローバー』は、一昨年に10億円を超える興収をあげた傑作『今日、恋をはじめます』の監督・脚本・主演のトリオが復活し、相手役にはジャニーズ一押しのグループ関ジャニ∞のメンバーを配した力の入れ様。これは大きな失敗を予感するのはとても不可能である。


老舗ホテルのイベント企画課に勤める主人公と、その上司であるエリート街道を狙うサディスティックな性分の男。その二人の絶妙な掛け合いに、ホテルの令嬢や人気俳優を交えた四角関係を描いたスクリューボールコメディは、40年代ごろのハリウッドの恋愛喜劇黎明期を彷彿とさせるばかりではなく、現代日本の映画界に新たにひとつのジャンルを確立するレベルにまで到達している。
それは監督である古澤健の演出力の業であり、そして天性のコメディエンヌ振りを発揮する武井咲の存在感による業に他ならない。


早稲田大学からPFFを経て映 画美学校に進み、黒沢清のもとで修行を積んだ古澤健が開花したのは2010年の『making of Love』であろう。
2012年の『今日、恋をはじめます』ではあらゆる恋愛喜劇映画へのオマージュを感じる見事な手腕を見せ、つづく『ルームメイト』では北川景子と深田恭子の壮絶な演技バトルを展開させた。当代で間違いなく、女優を撮る能力に長けている古澤健は、今回は武井咲のみならず、夏菜と木南晴夏といった個性の強い女優を、見事に活かしている。武井の可愛らしさは劇中全体に渡り維持され続け、悪女を演じる夏菜のそれらしさ、主人公を支える木南の助演としての秀逸なフォロー。
もちろん男優陣も非常に良く、関ジャニ∞の大倉忠義のS気と闇を抱えたキャラクター性の幅の効かせ方は、さすがジャニーズと言わんばかりの巧さがあり、ライバル格である永山絢斗は大倉とは対照的な明るく人当たりのいいキャラクターを演じながら、両者とも不器用な男の姿をまざまざと演じ切っている。


撮影を務めたのは新城毅彦『僕の初恋をキミに捧ぐ』の小宮山充で、編集は吉田恵輔『銀の匙』の李英美と、優れた作家と仕事をしてきたスタッフが、今回古澤組に入っているだけあり、映像的な面白さも充分。
冒頭で街頭ビジョンに流れる映画の予告編を観る主人公の姿からの回想への転移や、オープニングクレジットでのホテル内を蠢き回るキャメラ。湖の上を飛んでいく帽子や、丘の上からの雄大な景色。
『今日、恋をはじめます』ではビスタサイズの画面の狭さを利用したカメラの動きで魅せたが、今回はシネスコの画面をフルに活かした画作りで魅せる。その中では、序盤のホールでのシーンや、終盤の教会でのシーンのように、画面のどちらか半分に被写体を置き、残りの半分は無機質なままではなく、何かしらその場所にあるものを置くというフレームの自然な遊びが見事である。
電話と同時に画面が二分される典型的な編集技法も、ここではすべて新しいものに見えてくる。

これは、まぎれもなく2014年を代表する傑作である。少女漫画に必要なドキドキ感を与えつつ、物語の起伏も台詞のリズム感も心地よい。演者のファンへのサービスも充分織り交ぜられ、120分という尺を一気に駆け抜けていく。
この後も、多くの少女漫画原作の映画が公開していくが、はたしてこれほどまでのときめきを観客に与えることができるであろうか。少なくとも、今のところ自信を持ってこの手の作品を任せられる監督は、古澤健以外にはいないのではなかろうか。


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