第90回アカデミー長編アニメーション賞予想〜『この世界の片隅に』はアカデミー賞候補になるのか〜

つい先日に第89回アカデミー賞のノミネート作品が発表されたばかりですが、早くも来年の第90回に目を向けてみようと思います。たぶん鬼が笑うことでしょう。

といっても、作品賞ではなく、長編アニメーション部門です。
個人的に何故この部門に大きく注目しているかというと、アカデミー賞の全部門の中で唯一、アメリカのメジャー大作と、世界中の作品が、作品という総合的な部分で対等に戦うことができる部門だからなのです。

そして比較的新しい部門なので、データが取りやすいというのも一理ありまして。まあ、何はともあれ過去の候補作を一覧でチェックしてみましょう。この後に使うデータも併記しています。

 

制作会社は主だったところを、またわかりやすいようにブエナビスタ配給作品もディズニーとしてまとめてあります。
これまで64本の作品が候補に上がっております。

では、まずその大半を占めるアメリカ作品からチェックしていきましょう。


<長編アニメーション賞にノミネートされるアメリカ映画の特徴>

まず受賞経験のあるこの5社の作品であること
・ピクサー
・ディズニー
・ドリームワークス
・ライカ
・ニコロオデオン

アニメーションといえばディズニー、というのはもちろんのこと、注目すべきは制作作品のノミネート率100%のライカです。今年の『Kubo and the Two Strings』で受賞することがあれば、さらにこの勢いは加速することでしょう。
一方で、一時期全盛を極めたドリームワークスは近年失速気味。『ヒックとドラゴン』のヒットはあったものの、2011年に『シュレック』のスピンオフ『長ぐつをはいたネコ』とシリーズ2作目の『カンフー・パンダ2』を候補に送り込んだところがピーク。
今後は、ドリームワークスに変わりイルミネーションエンターテイメントが、国内メジャーでのディズニーの対抗株になる見通しが強い。

それ以外の制作会社の作品はどうか。
まず2002年に旋風を巻き起こした『アイス・エイジ』のブルースカイ。ところが、2011年の最もウィークイヤーに、歌曲賞候補になりながら長編アニメ賞候補を逃した『ブルー初めての空へ』があったことを踏まえると、『アイス・エイジ』シリーズの惰性を完全に引きずっている模様。今後大きな当たりを生み出さない限り、この賞レースに復活する可能性は低い。

『ハッピーフィート』『ファンタスティック・Mr.FOX』『アノマリサ』と、実写監督の作るアニメ作品も非常に候補入りの確率は高い。ロバート・ゼメキスがプロデュースを務めた『モンスターズ・ハウス』は、それにプラスしてディズニー傘下のイメージムーバーが制作ということも働いたのだろう。
(肝心の監督作が候補を逃しているのは、エントリー数による候補作が限られた中で、非常に相手が悪かった2004年の『ポーラー・エクスプレス』、そしてアニメ賞の流れが変わり始めた2009年の『クリスマス・キャロル』なので仕方あるまい)

2007年に候補入りをした『サーフズ・アップ』だけは、たしかに候補入りの理由が見つからない。ただ、監督のクリス・パックはジョン・ラセターの弟子に当たり、ディズニーからソニー・ピクチャーズ・アニメーションに移籍して同作を制作後、ふたたびディズニーに戻り『アナと雪の女王』を手がけている。つまりディズニーの力が働いているというわけだ。

とはいえ、原因不明の候補漏れは、少なからず発生する。つまり、2011年の『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』はまさにそれで、スティーブン・スピルバーグ監督で、ニコロオデオンが制作に関わっている。ただし、この年の受賞作はニコロオデオンがメインで務めた『ランゴ』。つまりは制作会社のバリューはこの部門に大きく関わるということが証明されたのである。

つまり、アメリカ作品は
1制作会社
2監督
3評価
という順番で決まるのである。


<ハリウッドに挑戦できる海外作品の特徴は?>

続いては、これまで19作品が候補入りを果たしている、アメリカ以外の国の作品である。

簡単に分けるとこんな感じだ。

スタジオジブリ作品6本
アードマンスタジオ作品3本

この2大スタジオが、ハリウッドと互角にわたり歩き、受賞経験もあるのが光る。
アードマン作品は、それぞれ異なる配給会社であるが、ジブリは『千と千尋の神隠し』と『ハウルの動く城』がディズニー配給で、それ以外はGKids配給である。

というわけで、外国アニメ19本の配給会社の内訳を見てみよう。
・GKids 10本
・ソニー・ピクチャーズ・クラシック 4本
・ディズニー 2本
・ドリームワークス、ライオンズゲイト、ソニー 各1本


おわかりいただけただろうか。
アードマン作品とジブリ作品を除けば、GKidsとSPCしかないのである。
もうこれだけで話が済むと言っても過言ではないだろう。
しかも、GKidsの配給作品は『ブレンダンとケルズの秘密』から8年間で10作品が上がっている。2011年と2013〜2015年の計4回も2作品をノミネートに送り込んでいるのだ。


つまり、『君の名は。』が何故今年のアカデミー賞の候補に上がらなかったのか。答えは簡単で、配給会社がFUNIMATIONだったから。結局のところ、政治的な部分が強い賞レースで、とくに外国映画の場合は配給会社の持つ影響力に左右されるのである。
では逆に、『百日紅 Miss Hokusai』がGKids配給にもかかわらずあがらなかった理由は4つあり、
・GKidsが『ズッキーニと呼ばれて』を猛プッシュしたため。
・ジブリ×SPCの『レッドタートル』があった
・ディズニー系列作品が3本でしのぎを削っていた。
・最強のライカがいた。

という史上稀に見る混戦だったからに他ならない。
つまり、6枠あれば『ファインディング・ドリー』が入り、7枠あったら『百日紅』が入っていたということでもある。

ちなみに、『ズッキーニと呼ばれて』は外国語映画賞の最終選考にも残っていた。同じように、アニメ作品が外国語映画賞の最終選考に入るというのは、2008年の『戦場でワルツを』と同じだ。
このときは、『戦場でワルツを』は外国語映画賞にノミネートされ、長編アニメ賞候補を逃す。この年の長編アニメ候補作は3本。上の表を見ればわかるが、いくらSPC配給といえど、入る余地がなかったのである。


<『この世界の片隅に』はアカデミー賞の候補に入るのか?>

さて、本題はこれです。
先日、『この世界の片隅に』の北米配給がShout!Factoryに決まりました。この会社、今年は『Long Way Noth』というフランス作品をエントリーしましたが、候補にはあがらず。アヌシー映画祭で観客賞を受賞し、アニー賞のインディペンデント作品賞候補にもあがった作品なだけに、キャンペーン力に疑問が残ります。
とはいえ、前述のようにこれまでで最も激戦が繰り広げられた年です。とても参考にはできません。

だとしたら、他の主要会社の待機作をチェックして、消去法で考えてみるとしましょう。


<第90回アカデミー長編アニメーション賞にエントリーしそうな作品>

実は、2017年はウィークイヤーになる可能性が高い。
何故なら、ディズニーアニメの次回作は2018年の『シュガーラッシュ2』までないのである。
とはいえ、ピクサーが今年は2作待機している。『Coco』『カーズ3』だ。
これまで候補入りを果たした続編は、『シュレック2』『カンフーパンダ2』『ヒックとドラゴン2』のドリームワークス勢に、前作までこの部門がなかった『トイストーリー3』、そして『怪盗グルーのミニオン危機一発』のみだ。
少なくとも『カーズ2』が候補入りを果たさなかった時点で、3作目の候補入りはない。エントリーするまでに留まり、今年のディズニー系列からの候補は1本だけになるだろう。

また、ライカもニコロオデオンも今年は作品発表の予定がない。
落ち目のドリームワークスも『Boss Baby』『Captain Underpants』の2作ではオスカー受けはしないだろう。

他のアメリカメジャーで発表される作品で候補入りの可能性がありそうなのは、
ソニー・ピクチャーズ・アニメーションの『The Star』。『アノマリサ』の制作に関わったティモシー・レッカートの初長編作品。11月という公開時期も悪くない。
FOXアニメーションではカルロス・サルダナの『Ferdinand』がありますが、前述の通り可能性は薄そう。

今年メガヒット作を輩出しながら、混戦に敗れたイルミネーションエンターテイメントは、『怪盗グルー』シリーズの3作目『Despicable Me3』を発表。2作目が候補入り、スピンオフが候補漏れだったので、どちらとも言えない状況だ。


では海外アニメに目を向けてみよう。GKids配給作品が、実に強力なのである。
まずは2009年の候補作『ブレンダンとケルズの秘密』で、トム・ムーアと共同監督を務めたノラ・トゥーメイの単独監督作『The Breadwinner』。制作はこれまでと同じくCatoon Saloonなので、候補実績も充分。

そしてフランス勢ではセザール賞候補にもなっているセバスチャン・ローデンバッハの『手を失くした少女』が控える。
さらに『キリクと魔女』などで日本でも高い知名度を誇るミシェル・オスロの『Ivan Tsarévitch et la Princesse Changeante』もあるが、過去2作がともにGKidsの配給でありながらエントリーしていない点、またアカデミー賞の長編規定40分をかろうじて上回る53分の尺がどうか。

さらに、目下のライバルとなるのは同じ日本アニメである神山健治の『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』だろう。『ルドルフとイッパイアッテナ』もGKidsが配給権を買っているようだが、エントリーに踏み切るかは今ひとつ不明なところだ。


また、配給先が決まっていない+完成するか不明ではあるが、過去2作が候補入りを果たしているシルヴァン・ショメの『The Thousand Miles』が2017年公開予定。もし過去2作同様にSPCが配給するならば、候補入りは堅いところだろう。


ちなみに、エントリー作品が16作以上ならノミネート枠は5枠になる。近年エントリーする作品が増えているだけに、15作以下になる可能性は低いだろうが、もし3枠となるなら『この世界の片隅に』の候補可能性はほぼ消滅するだろう。5枠でも、少々苦戦を強いられるかもしれない。



現時点でのノミネート予想は以下のとおり。



『Coco』(ディズニー)
『手を失くした少女』(GKids)
『The Thousand Miles』(配給未定)
『The Star』(SONY)    or『Despicable Me3』(ユニバーサル)
『The Breadwinner』(GKids) or『ひるね姫』(GKids)or『この世界の片隅に』(Shout!Factory)




ちなみに2018年にはウェス・アンダーソンの『Isle of Dogs』、そしてアードマンの最新作『Early man』が来るので、ほぼ候補は確実ではないだろうか。また、トム・ムーアの『Wolfwalkers』も現在製作中で、2018年に間に合えば、また混戦の年が訪れることだろう。



※まだ多くの情報が固まっていないため、現時点の情報を参考にしています。

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